日本WHO協会からのお知らせ

2023年12月 : 新しい葡萄酒は新しい革袋に入れる

2023年11月24日 – 26日に東京大学でグローバルヘルス合同大会 2023 が開催されました。 日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会、日本渡航医学会、国際臨床医学会というグローバルヘルスに関連する 4 学会が、3 年ごとに一堂に会します。 2020年は大阪で開催され、私も大会長の一人として参画しました。 今回は、新型コロナが 5 類感染症となってはじめてのグローバルヘルスの学会ということで、多くの人が対面で集まることができました。

私は、一般口演「外国人保健医療 在留在住」のなかで、山本秀樹先生 (帝京大学) といっしょに 5 題の演題の座長を務めました。 ベトナム人やミャンマー人の医療へのアクセスの課題、リスクコミュニケーションの問題、不安や孤独感といったメンタルな課題など、外国人に対する保健医療の現状と課題を浮き彫りにし、その解決の道筋を示唆するすばらしい発表でした。 会場は、東京大学医学部1号館の階段教室。 私が数十年前に生理学の講義などを受けた時代から、基本的な構造は変わっていません。 狭い入り口から教室に入り、高い段差の階段を登って、備え付けの長机と長椅子に詰めて座っていきます。 そのようなバリアーフリートはほど遠い環境の教室に、100 名近くの聴衆が詰めかけてくれました。

私の学生時代には、医学部の講義の中で、日本で暮らす外国人医療に関する講義は皆無でした。 その同じ空間に全国から若い実務者や研究者が集まって、喧々諤々の議論を交わしていることは感慨深いものがありました。 2009年に大阪の仲間たちといっしょに医療通訳士協議会を設立したときには、外国人医療や医療通訳士に関するエビデンスはほとんど欧米の文献に頼るしかない状況でした。 わずか 10 年余りで、日本国内からさまざまな研究が生み出され、外国籍の方や留学生なさまざまなルーツを持つ研究者が発表していることに感動しました。 また、医療通訳士という新しい職種の方々が学会に参加し発表している姿を見ることができ、とてもうれしかったです。 2020年に国際臨床医学会認定の医療通訳士制度が発足し、いまでは 15 言語 384 名の医療通訳士が活躍しています。

「新しい葡萄酒は新しい革袋に入れる」といいます。 在留資格や外国人労働という制度の課題、言語や通訳といったコミュニケーションの課題、文化や宗教という異文化理解の課題など、解決すべき課題はまだ存在しています。 しかし、多様性に富むさまざまな立場の方々が実践し発言することにより、新しい葡萄酒を入れるための、新しい革袋の準備がそろそろ整いつつあることを実感しました。 日本WHO協会も、だれひとり取り残されない外国人保健医療をめざして、新しい革袋を作っていくための活動に尽力していきたいと思います。

公益社団法人 日本WHO協会

理事長 中村安秀

WHOインターンシップ支援
メールマガジン登録

刊行物(目で見るWHO)
賛助会員募集中