20 世紀末の1999年、ヨーロッパが戦場となり、コソボ難民がマケドニア共和国 (当時) に流入しました。 難民が国境を越え大量に流入した直後の難民キャンプには、世界中から多くの支援が届けられました。 各国から駆けつけた医療支援団体が集まりお互いの活動を調整する会議が毎晩行われていました。 その国際会議を仕切っていたのは、30 歳代の若者でした。
9月 1日は防災の日。 日本の多くの地域では、防災訓練が行われました。 一方、私が駆け付けた世界の人道緊急支援の現場の多くでは、若者はいつも先頭を走っていました。 きっと、ひとは多くの体験を積み、経験や知恵を蓄積するのでしょうが、同時に何か大切なものを失っていくのかもしれません。 国際協力の現場では、ときには無謀だと非難されるような大胆さと勇気ある決断が必要とされることもあるのです。
その時の体験をもとに、国際保健を志す若い世代の方には、「見る前に跳べ!」という言葉を伝えてきました。 「石橋を叩いて渡る」を反語的に使った大江健三郎氏の小説のタイトルからいただいた言葉です。 「失敗してもかまわないから、見る前に跳んでみませんか。 自分が信じている道に挑戦することで、新たな世界が開かれるかも知れません」といったメッセージです。
2025年 8月に、WHO 健康開発総合研究センター (WHO 神戸センター ・ WKC) が主催する、WKC フォーラム2025 が開催されました。 WKC が主催する若者のためのグローバルヘルスの啓発 ・ 育成プログラムで、国際保健に関心を持つ大学生、高校生、中学生が100名以上も集いました。 大阪大学の有志が講師を務め、inochiWAKAZO プロジェクトの学生と OB が積極的に運営を担いました。
WKC フォーラムに至るまでのサマースクールでは、史上最高の猛暑の 8 月の大阪で、若者たちは 2 週間、自分たちでテーマを決め、ネットで世界中のデータを集め、深く分析を掘り下げました。 24日のフォーラムでは、「全ての人が生きやすい社会を実現するため、移民 ・ 難民に対するスティグマや偏見に対する取り組み、医療格差の是正、多文化共生、社会統合に対して確固たるエビデンスに基づいた対策や介入の実施を求める」といった提言がいくつもなされました。
日本人ファーストといった言説が巷に飛び交うなかで、若者たちがだれひとり取り残されない多様性に富んだ社会をめざして、背筋をピンと伸ばして直截に提言した姿勢に感動しました。 さまざまな出会いと学びのなかで、なぜだろうという素朴な疑問からスタートして、ワクワクしながら地球規模で健康に取り組む楽しさに触れることができた経験は、きっとこれからの人生の大きな糧になることでしょう。
まさに、「見る前に跳べ!」とばかりに、国際保健の世界に飛び込んでいきたいという若者たちの熱気に圧倒された夏でした。 WKC (WHO 神戸センター) が長年にわたって積み重ねてきた次世代育成の試みのすばらしい到達点です。 今後の日本 WHO 協会の活動のあり方にも大きさ刺激をいただいたこと、心から感謝申しあげます。
公益社団法人 日本WHO協会
理事長 中村安秀