健康の定義
健康の定義について
1948年に発効されたWHO憲章では、前文において「健康」を次のように定義しています。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」
この健康の定義は、いまも世界中でひろく使われています。
ただ、現在でも、日本WHO協会に、従来の健康の定義に「spiritual(霊的)とdynamic(動的)」は加わっていないのですかという問い合わせを受けることがあります。
1998年の第101回WHO執行理事会において、「spiritual(霊的)とdynamic(動的)」を加えた新しい健康の定義が検討されました。賛否両論があったのですが、第52回世界保健総会(WHO総会)の議案とすることが決定されました。そして、WHO総会で審議した結果、採択が見送られました。
日本では、WHO執行理事会により総会に提案が決まった時点で、健康の定義の改正が規定事実のように大きく報道されたために、現在も誤解が続いている面があります。
この提案をしたのはEMRO(東地中海地域事務局)です。アラビアのイブン・スィーナー(980-1037)の『医学典範』は、ギリシア・ローマに由来する医学理論を体系的に整理したもので、長くヨーロッパにおいても医学の教科書として使われました。そういうイスラム医学の伝統に則って、文化的宗教的な背景に基づいた健康観を提案したものと考えられます。
今後も、WHO憲章の健康の定義を不変のものとして捉えるのではなく、時代や環境に即して変化するなかで、健康とは何かという真摯な議論を続けていく姿勢が求められています。