いま、多くの学会が、かつての全面オンラインから、遠隔配信を残しながら対面での議論を重視した形に移行しつつあります。 また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で中断していた国際フォーラムや国際セミナーが徐々に再開されつつあります。 対面の学会に参加すると、セミナーやシンポジウムという場が醸し出す雰囲気そのものが学会の議論を左右しているといった新しい気づきもありました。 また、2 – 3 年ぶりに再会する友人も多く、雑談することの大切さを改めて認識しました。
非常にうれしい反面、単純にコロナ以前の形に戻ることでいいのだろうかという素直な疑問も生じます。 とくに日本には、川や海の水に浸かり、ケガレを祓い清める禊(みそぎ)の文化があります。きちんとした科学的な検証がないままに、失敗の検証や反省することなく、以前の社会に戻っていくことを恐れています。 内閣府が2022年6月に発表した「次の感染症危機に向けた中長期的な課題について」という検証作業も、今後どのように国民的議論として継続していくのかという姿が見えてきません。
10月に多くの学会に参加し、対面で多くの方と議論する機会を得ました。 その率直な印象では、いまこそ次の感染症危機に向けたCOVID-19対策の丁寧な検証を行うべき時期だろうと思います。 そのときのキーワードの一つは、「とり残されたのは、だれ?」。 2021年 6月の「関西グローバルヘルスの集い」のテーマでもありました。
https://japan-who.or.jp/about-us/notice/2106-40/
いま「とり残されたのは、だれ?」と問いかけると、多くの方から回答が返ってきます。 人工呼吸器をつけて自宅で療養する子どもをもつ家族は、感染を恐れて病院に行きづらく、友人や支援者の訪問も途絶え、都会の中で孤立して過ごしていたそうです。 日本で暮らす外国人には新型コロナワクチンの接種券がなかなか届かず、親の病気のときにも帰国できなかった(当時は、母国に入国するにはワクチン 2 回接種が必須だった)と涙を流して話してくれました。
持続可能な開発目標(SDGs)の「だれひとり取り残さない」という標語は美しい。 だけど、「とり残されたのは、だれ?」と真摯に問い詰めていくことで、2020年 1月以降の私たちひとりひとりの体験がよみがえってきます。この問いかけを忘れずに、COVID-19対策の検証を行っていきたいと考えています。
公益社団法人 日本WHO協会
理事長 中村安秀