2023年は、世界保健機関(WHO)の設立 75 周年の節目の年にあたります。 WHOでは、75 年間の公衆衛生の改善の集大成として、「Health For All」を掲げ、歴史を振り返り、未来を見つめる年となりました。
「関西グローバルヘルスの集い (KGH) 」において、第 7 弾として「Health For Allへの道 : 平和と紛争 ・ 戦争」をテーマに掲げました。 7月は、小林潤さん (メータオクリニック支援の会 ・ 代表理事) とレシャード ・ カレッドさん (カレーズの会 ・ 理事長) にご登壇いただき、ミャンマーとアフガニスタンのお話を伺いました。 すばらしい講演と中身の濃いパネル ・ ディスカッション。 紛争と戦時下が長く続いてきたミャンマーとアフガニスタンの厳しい状況のなかで地道な活動を継続してきたおふたりが口を揃えて「関心を持ってください」と語っていたのが印象的でした。 講演で聞いたことを、ひとりでも多くの人に伝えてもらうことの大切さにも言及していました。
かつて、パレスチナを訪問したときに、「私たちのことを忘れないでほしい」と言われた言葉がよみがえってきます。「Health For All」は、1978年に開催されたプライマリヘルスケア (PHC) 国際会議のアルマアタ宣言のメインテーマでした。 アルマアタ宣言は、PHCの理念と原則を明確に打ち出したことで知られていますが、同時に平和に関しても積極的に言及しています。
アルマアタ宣言の 第 3 項 には、「人々の健康を増進し、守っていくことは、持続的な経済と社会の発展に不可欠であるとともに、より良い生活の質と世界平和に貢献することです。」とあります。 第 10 項 には、「世界のすべての人々の健康水準を引き上げることは、現時点で軍備と軍事紛争のために大部分が使われている世界の資源を十分に活用することで達成できます。」と踏み込んだ文言が書かれています。 当時のアメリカ合衆国やソビエト連邦を含む 143 か国がこのアルマアタ宣言に合意したことが夢のようです。
アルマアタ宣言に関心を持たれた方は、ぜひ日本WHO協会のホームページをご覧ください。 ベトナム戦争が終結してから 3 年目という、つかの間のデタント (緊張緩和) の時期に書かれた平和への希求が行間からあふれ出ています。
https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter-2/alma-ata/
ことしも原爆や終戦の日が続く夏がやってきます。 戦争や被爆を直接体験した世代の人々が少なくなり、戦争体験をどのように次世代につないでいくのかが問われています。 ウクライナや北朝鮮だけでなく、いまも世界の多くの国や地域で戦争や紛争が絶えまなく続いてきた事実を忘れることなく、第二次世界大戦以降に国連やWHOが提唱してきた平和と健康の課題をじっくり考える夏にしたいと思います。
公益社団法人 日本WHO協会
理事長 中村安秀