日本発の母子健康手帳 (以下、母子手帳) は、いまや 50 か国以上に広がっています。 1990年代に、インドネシア ・ 中部ジャワ州のサラティガ市のモデル地区から始まった母子手帳の国際協力は大きく広がっています。 2024年 5月にフィリピン ・ マニラで開催された「第 14 回 母子手帳国際会議」においても、タジキスタンやナイジェリアなど、新しく母子手帳を開発したばかりの国々が意気揚々と参加してくれました。
2024年 7月に、「母子健康手帳」の国際的普及を中心とした保健医療分野における長年の活動に対して、「大同生命地域研究特別賞」をいただきました。 母子健康手帳の実践と研究を地域研究のひとつの形として表彰していただいたことに、格別の感慨を覚えています。
私が最初に母子手帳の開発に関わったインドネシアでは、試行錯誤の連続でした。 ただ、近代医学が発展するはるか以前から、人々は妊娠し、出産し、助け合いながら子育てしてきたように母子保健は文化と密接に関係しているのだから、日本の母子手帳の翻訳はせずに、現地の医師や看護師との議論を続けるという軸がぶれることはありませんでした。
今回の受賞において、インドネシアにおいて、現地の人々と協業し、諸外国の国際的な組織とも協力しながら、母子健康手帳を用いた母子保健サービスの仕組みをインドネシア各州へと拡大したことを高く評価していただきました。 地域社会の実情に合わせること、現地の専門家たちと協力すること、長期にわたって続けること、という 3 つの特徴は、まさに地域研究の精神の体現であるとのことでした。 ただ、これは、私だけでなく、青年海外協力隊や NGO など国際保健医療協力のフィールドワーカーの多くが地道に実践してきたことでもありました。 その意味でも、長年にわたり母子手帳の国際展開の実践活動や研究推進において協働してきた多くの仲間との共同作業の重要性を再確認することができました。
今後も、地域研究「特別賞」 を守り神として、世界中の子どもたちが自分の母子手帳を手にする日まで、研究と実践に励んでいきたいと思います。
ご指導ご鞭撻のほど、何とぞよろしくお願いします。
公益社団法人 日本WHO協会
理事長 中村安秀