日本WHO協会からのお知らせ

2020年5月

およそ100年前、大正7年秋から大正10年春まで、日本国内で3回の流行により総計2380万余人の患者と約38万8千人の死者を出したのが、スペイン風邪でした。当時の内務省衛生局がまとめた詳細な報告書が、『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』として東洋文庫から発刊されています。そのときの政府が実施した予防策が10か条にまとめられています。

   

  • マスクの使用を奨励すること
  • 劇場、寄席、活動写真館の入場者、電車、乗合自動車の乗客にはマスク着用を義務化する
  • 流行地では多数が集まることを避ける
  • 身体に異常があるときは必ずすぐに医師の診察を受け静養すること

   

PCR検査や人工呼吸器のない時代ですが、現在の生活上の予防策と大きな変わりはありません。まだ国民皆保険がなかった時代なので、「すぐに医師の診察を受ける」といわれても、医療を受ける経済的余裕のない家庭も少なくありませんでした。当時の衛生局の官僚たちは、医療を受けられない人には救いの手を差し伸べることも明示していました。現代風の「持続可能な開発目標(SDGs)」の用語を使えば、大正時代においても「だれひとり取り残さない」予防が講じられていたことになります。

先週、大阪大学で博士号を取得したインドネシア人の公衆衛生専門家から、日本の新型コロナウイルス対策に学びたいという連絡を受けました。インドネシアでも少しずつ患者数が増加しているそうです。かつて指導した留学生からの依頼はうれしいものです。二つ返事で、オンラインによる国際セミナーを開催することを承諾しました。

感染症に国境はありません。新型コロナウイルスは、自国だけで解決できません。仮に日本国内で感染を終息させることに成功しても、地球上に大きな流行地がある限り、日本国内における感染症対策や水際作戦を継続する必要があります。アジアやアフリカの新型コロナウイルス感染対策に対する国際協力を継続して行うことは、ひいては国内の感染症対策に資する道筋でもあるのです。

日本モデルを提供するといった形の国際協力ではなく、アジアの国々の取り組みからも謙虚に学びながら、日本の現在だけでなく過去の経験も明らかにして、成功体験は惜しみなく共有し、失敗を糧にして同じ轍を踏まないように注意しあう。そのような国境を越えた学びの場がいま必要とされているのかもしれません。

5月13日 (水) には、「第8回グローバルヘルスの集い」として、日本WHO協会 ・ 生産技術振興協会 ・ ジョイントセミナー「新型コロナウイルスとSDGs」を開催します。

今後も、できるかぎりオンラインの形でセミナーやイベントを開催していく予定です。皆さま方のご指導ご鞭撻のほど、何とぞよろしくお願いします。

理事長 中村安秀

WHOインターンシップ支援
メールマガジン登録

刊行物(目で見るWHO)
賛助会員募集中