日本WHO協会からのお知らせ

2019年5月

三菱財団の研究の一環として、甲南女子大学の丸光惠教授(日本WHO協会理事)らと、サウジアラビアのジェッダを訪問してきました。在日外国人の医療に携わり「医療は文化である」と唱え続けてきた私ですが、本場のイスラム教徒(モスリム)のインパクトは強烈でした。

サウジアラビアでは「街中がイスラムのテーマパークである」と看破したのは、大阪出身でパリ在住の比較文化史家の竹下節子さんでした(『不思議の国サウジアラビア』文春文庫)。1日5回のお祈りの時間には、街中のスピーカーからアナウンスが流れます。週末は金曜日と土曜日で、日曜日からは仕事。男性は白のロングワンピース、女性は黒いガウン(アバーヤ)と黒いヴェール(ヒジャブ)、白と黒のゆったりとした衣服で頭頂部から足首まで優雅に着込むなかで、ピンポイントでおしゃれしています。

街の生活そのものが、イスラムのリズムです。大きな腎透析センターをもつような高度医療機関の大学病院でも、当然、イスラムの教えに基づいた医療が行われていました。入院患者は男性用、女性用に病棟が厳格に区分されています。手術用のヒジャブが準備され、女性は髪を覆い隠したまま手術を受けることができます。お祈りの際に手足を水で清められない患者のためには、砂の袋の上に乗せるだけでいいという「砂清めセット」が準備されています。生まれた新生児には男性の家族が耳元でコーランを唱え、ICU(集中治療室)ではお祈りが流れ、臨終の際にはコーランが唱えられます。

一方、臓器移植については、以前は禁止されていましたが、脳死に関する宗教的な見解がだされ、いまでは異教徒間においても臓器提供が認められているとのことでした。

医学や科学において、西洋と東洋という区分だけでなく、アラブ世界やイスラム教という第三の要素に目を向けることで、より多面的で多様な視点をもつことができるのではないでしょうか。日本にはすでに10万人以上のモスリムが暮らし、イスラム圏からの観光客も激増しています。ますますイスラム医療から目が離せません。

理事長 中村安秀

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