ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
キーファクト(主要な事実)
- 世界は、2030年までにユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)(持続可能な開発目標(SDGs)目標3.8)に向けて大きく前進する軌道から外れています。医療サービスを利用できる範囲の改善は2015年以降停滞しており、医療費の自己負担額によって家計の破綻に直面する人口の割合は2000年以降増加し続けています。この世界的なパターンは、すべての地域と大半の国で一貫しています。
- UHC サービス普及指数(カバレージインデックス)は、2000 年から 2021 年の間に 45 から 68 に増加しました。しかし、2015年以前と比較すると、最近の普及指数の向上は鈍化しており、2015年から2021年にかけてはわずか3ポイントの上昇にとどまり、2019年以降は変化が見られません。
- 2000年から2021年の間に、必要不可欠な保健医療サービスを提供されていない人口の割合は約15%減少しました。しかし、2015年以降の進展はわずかでした。その結果として、2021年には約45億人が必要不可欠な保健医療サービスを十分に受けられていません。
- 約20億人が経済的困難に直面しており、そのうち10億人が家計破綻的な医療費の自己負担(SDG指標3.8.2)を経験しており、3億4,400万人が医療費のために極度の貧困に陥っています。
- 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)は、2021年のパンデミック最盛期には、92%の国で必要不可欠な保健医療サービスの中断が生じました。2022年においても、84%の国が依然としてサービスの中断を報告しています。
- COVID-19の混乱から回復しさらに改善するために(ビルド・バック・ベター)、WHO はプライマリ ヘルスケア (PHC) アプローチを用いた保健医療システムの方針転換を推奨しています。 UHC 達成のために必要不可欠な介入のほとんど (90%) は PHC アプローチを通じて実施することができ、2030 年までに 6,000 万人の命が救われ、世界全体の平均寿命が 3.7 年伸びる可能性があります。
概要
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、すべての人々が、経済的な困難なしに、必要な時に、必要な場所で、ニーズに応じた質の高い保健医療サービスに十分にアクセスできることを意味します。これは、健康増進から予防、治療、リハビリテーション、緩和ケアに至るまで、ライフコースを通じた必要不可欠な保健医療サービスの全過程をカバーするものです。
このようなサービスを提供するには、保健医療システムのあらゆるレベルにおいて、最適な専門的技術を備えた保健医療介護の従事者が必要です。彼らは、公平に配置され、品質が保証された製品(医薬品や医療機器など)を利用することができ、彼ら自身が働きがいを持って人間らしい働き方を享受していることが求められます。
医療サービスを自己負担で受けることによる経済的な影響から人々を守ることにより、人々が貧困に追い込まれるリスクを減らすことができます。必要なサービスや治療にかかる費用のために、貯蓄を使い果たしたり、資産を売ったり、借金をしたりしなければならなくなり、その結果、自分たちの将来やしばしば子どもたちの将来をだいなしにしてしまうからです。
UHCの達成は、世界各国が2015年に2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)を採択した際に設定した目標の1つです。2019年国連総会UHCハイレベル会合において、各国は、健康が持続可能な開発の社会的、経済的、環境的側面の前提条件であり、その結果と指標であることを再確認しました。WHO の第 13 次総合事業計画(GPW13)では、2025 年までに(ベースラインデータよりも)さらに10 億人以上が UHC の恩恵を受けることを目指し、同時に、さらに10 億人以上が健康上の緊急事態からよりよく保護され、さらに 10 億人以上が健康とウエルビーイングをよりよく享受するという目標にも貢献します。
UHCに向けた進捗
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)の前に、UHCの進展はすでに遅々としていました。2015年以前のサービス適用範囲の拡大における目覚ましい進展ペースは続かず、UHCサービス普及指数(SDGs指標3.8.1)は2019年までにわずか3ポイント上昇して68となり、2021年までこのレベルで停滞しました。その結果として、2021年には約45億人が必要不可欠な保健医療サービスを十分に受けられていません。家計破綻的な医療費の自己負担が発生する人口の割合(SDG3.8.2)は、2000年の9.6%から増加し続け、10億人を突破した2019年には13.5%に達しました。その上、2019年には、医療費の自己負担によって3億4,400万人がさらに極度の貧困に陥り、13億人が相対的貧困に陥りました。2019年には、20億人が何らかの形で経済的苦境(家計破綻的、困窮、またはその両方)に直面しました。
家計破綻的な医療支出が増加の一途をたどっている一方で、保健医療サービスの普及は停滞しているという世界的なパターンは、すべての地域、高中低所得国にかかわらず、そしてどの所得レベルでもほとんどの国で一貫しています。
不平等は、引き続きUHCの基本的な課題です。保健医療サービス普及指数に関して国レベルでの進歩があったとしても、その集計データは国内での不平等を覆い隠しています。たとえば、特に低所得国においては、リプロダクティブヘルス、母子保健、青少年保健サービスの普及率は、富裕層、高学歴、都市部に住んでいる人々の間で高くなる傾向があります。経済的な困難については、高齢者(60歳以上)のいる世帯で、家計破綻的な医療費の自己負担支出がより多く見られます。貧しい世帯、農村部、高齢の家族(60歳以上)がいる世帯に住む人々は、医療費の自己負担によってさらに貧困に引きずり込まれる可能性が高いのです。健康の不平等をモニタリングすることは、不利な立場にある人々を特定し追跡し、UHC の漸進的実現に向けて、より公平性を重視した政策やプログラムや実践を策定するための根拠を政策決定者に提供するために不可欠です。また、ジェンダーの不平等、社会経済的不利益、紛争や経済・環境危機によって居住地を追われた先住民族や難民・移民が直面する特定の問題についても、より良いデータが必要です。
2021 年にCOVID-19パンデミックが最高潮に達した際、92% の国で必要不可欠な保健医療サービスが中断されました。 2022 年になっても、84% の国が依然としてサービスの中断を報告しています。2021年には、5歳未満の約2,500万人の子どもが定期予防接種を受けることができませんでした。新型コロナワクチンに対するアクセスには明らかな格差があり、2023年6月時点で、ワクチン接種を受けた人は低所得国では平均すると34%だったのに対し、高所得国ではほぼ73%でした。救命救急医療、緊急手術治療の介入においても、サービスの中断が増加し、健康転帰に短期的に重大な影響を与えた可能性があります。
UHCの基盤として、またUHCに向かう方法として、WHOはプライマリヘルスケア(PHC)アプローチを用いた保健医療システムの方針転換を推奨しています。PHCは、人々の身体的、精神的な健康、そして社会的なウェルビーイングを増進するための、最も包括的で、公平で、費用対効果が高く、効率的なアプローチです。これにより、人々の日常生活環境にできるだけ近いところで、保健医療サービスへの普遍的かつ統合的なアクセスが可能になります。また、人々が健康とウェルビーイングのために必要とする、質の高いサービスと製品を幅広く提供することを助け、保健医療サービス普及と財政的保護を改善することができます。大幅なコスト効率化が達成でき、UHC達成のために必要不可欠な介入のほとんど(90%)はPHCアプローチを通じて実施することができます。SDGsから予測される健康上の利益の約75%はPHCによって実現可能であり、これには6,000万人以上の命を救い、2030年までに世界全体の平均寿命を3.7年延ばすことが含まれます。
PHC に基づいて保健医療システムを強化することは、各国で測定可能な健康へのインパクトをもたらすはずです。
UHCは測定できますか?
測定できます。
SDGsのUHC目標は、経済的な困難に直面することなく、すべての人が必要な時に必要な場所で必要な保健医療を受けられるようにするための各国の能力を測るものです。これは、健康増進から予防、保護、治療、リハビリテーション、緩和ケアに至るまで、主要なサービスの全過程をカバーするものです。 SDGsでは、UHCの進捗は2つの指標を使って追跡されます:
- 必要不可欠な保健医療サービスの普及指数(SDG 3.8.1)
- 家計破綻的な保健医療支出(および関連指標)(SDG 3.8.2)
詳細な情報については、こちらの「よくあるご質問」(Q&A)をご参照ください。More information can be found in a Q&A available here.
詳細なデータは、WHO Global Health Observatory Data Repository for UHC において提供されています。
各国のプロフィールは、https://data.who.int/ からダウンロードできます。
このデータに基づき、WHOは2年ごとにUHCグローバル報告書を発表しています。報告書はこちらからご覧ください。
WHOの対応
UHC は、健康は基本的人権であると宣言し、すべての人に達成可能な最高レベルの健康を確保することを約束する 1948 年の WHO 憲章にしっかりと基づいています。
UHC の基盤として、WHO は保健医療システムをプライマリヘルスケア(PHC) に向けて方向転換することを推奨しています。 保健医療システムが脆弱な国では、WHOは国家レベルの機関を構築し、緊急に重大なギャップを埋める保健医療サービス提供のための技術支援に重点を置いています。WHOは、より確固とした保健医療システム環境において、将来のシステムのための政策対話と、パフォーマンス向上のための戦略的支援を通じて、すべての人びとへのヘルス・カバレッジに向けた公衆衛生のインパクトを推進します。
しかし、WHO が単独で行うのではありません。WHO は、世界中で UHC を推進するために、さまざまな状況やさまざまな目的で多くのさまざまなパートナーと協働しています。
WHO の協働機関(パートナーシップ)には次のようなものがあります。
- UHC2030
- UHC Partnership
- Global Action Plan for Healthy Lives and Well-being for All (SDG3 GAP)
- Alliance for Health Policy and Systems Research
文章は、日本WHO協会がWHOのメディアセンターより発信されているファクトシートのキーファクト部分について、2014年3月にWHO本部より付与された翻訳権に基づき作成したものです。ファクトシートには、訳出部分以外にも当該案件に関する基本的情報や詳細情報へのリンク先などが示されていますし、また最新事情に合わせて頻繁に見直しが行われますので、更新日時の確認を含めWHOホームページでの原文をご確認ください。